結局甲賀は近畿代表決定戦に進出するも、日本生命、大阪ガスという企業チームの前に大敗を喫した。

 大阪ガスばかり撮るという、あるカメラマンと知り合いになった。てっきり大手新聞社の方だとばかり思っていた。「高校野球は京都はどこが強いんですか?」「福知山成美や京都外大西、立命館宇治は卯瀧監督で、平安もありますかね」なんて話すと、卯瀧監督の話から、ピッチャーの話になり、プロに行った平野や山田秋の話になって、北嵯峨時代のときの話になり「金って知ってますか?」という話にもなった。

 色々と試合前からお話させてもらったところ、実は甲賀がなぜここまで勝ち上がってこれたのかということがわからなかったようで、都市対抗をかけたこの場面でなぜ互いが試合をしていることになっているのか不思議そうだった。大阪ガスの方からすると、企業チームと対戦するのが当たり前なんだろう。待ってましたとばかりに甲賀のことを、僕はまるで自慢話のように少しずつ話していった。

 まずニチダイが負けた話から始まる。そしてOBCやミキハウスに勝った話になる。「OBCって大家のところですよね?」「そうです。滋賀のクラブチームです。」「ミキハウスって奈良じゃないんですか?」「京都です。今年の4月から名称変更したんですよ。」「甲賀って専門学校なんですか?」「トレーナーになる勉強をするみたいですが、実際には彼らは野球専門学校に通ってるみたいなもんです。昼から練習です。」…などなど。大阪の試合は詳しそうだったが、僕は逆に京都はわかっても大阪はちょっと知らない。

 僕は甲賀に関する知識が増えて、これまでどういういきさつで勝ち上がってきたか教えてあげたくて仕方なかった。そのカメラマンも興味がないわけでもなかったので僕の話に耳を傾けてくれた。しかし、話せば話すほど点差が徐々に広がっていく。

 三塁側でまた再会すると「ほんと若いですね」と甲賀の選手を見てくれた。「そうでしょう。」わかってもらえた。一塁側にいるとき、序盤ですでに大差がついて、僕もどうしようもなかった。試合を観る集中力も薄れていく。だから僕はこの「奇跡」について話さずにはいられなかった。どうやって勝ち上がってきたかよりも「まだ、18歳、19歳なんです」と。鳥井が3連投しているチーム事情やなんやらを説明せざるをえなかった。

 試合後、甲賀の選手が一周して帰ってくるのを待っているとき、ある男性に話しかけられた。僕がノートを持っていたからだ。「すみません。鳥井君は先発したのですか?」「ええ、先発して5回まで投げました。」「そうですか。ちょっと遅れて来たもので。」ものすごく残念そうだったのと同時に鳥井の体を心配しているのもわかった。「チーム事情があるからねえ。どうだったんですか?」ノートを見ながら、「四球でランナーがたまって…、いかれました。」「なるほどね。他にピッチャーいないんですね?」「そうですね。ここで投げさせられるピッチャーはいないですね。」鳥井君をかばってあげたかったが、端的に打たれたということを伝えた。

 その男性が「ありがとう」と言って立ち去っていくと、僕も終ったんだなあ、という思いがしてきた。何も知らない人がこの試合を観たときに思うことを考えると、よくやったなんてとても言えないよなあ。藤本監督は「うちが負けたとしてもそれほどのことじゃない」とおっしゃった。僕は長い沈黙を続け、「ちょっと何も言葉が出てこないんですけど」と苦し紛れに言ったことから出てきた言葉だった。逆に僕がなぐさめられた気がした。





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