★京都教育大附属高校硬式野球部第43期マネージャー4人のお話 を元に構成
 (フォーセット望さん、堀のぞみさん、礒部爽さん、山田愛実さん)


img_7270.jpg
 彼女ら4人を見かけたのは、4回戦の第1試合、京都成章対立命館宇治のときだった。三塁側最前列で観戦する僕のすぐ後ろの席に4人が腰掛けている。置いてあるかばんをよく見ると「京教附」の文字が。三塁側は京都成章だったが、どうして彼女たちが熱を入れて応援しているのかはそのときわからなかった。7回ぐらいになって京教附が負けたのが京都成章だったことを思い出した。確か5回コールドだったはず。自分たちが負けた高校を応援している姿に「高校野球」を実感した。そして、彼女らの応援の甲斐があり、その試合で京都成章は辛くも立命館宇治に1点差で逃げ切り、準々決勝進出を決めた。振り返ると、彼女らの中に泣いている子がいて感心した。

 試合終了後、一旦席を外し売店の前をうろうろしていた僕だったが、彼女らが妙に気になり、取材というよりも話をしてみたいなあという思いから三塁側にいた彼女らを探したがもう姿がなかった。「しまったなあ」と一人ぶつぶつ言った。
 
 すると、第3試合の鳥羽対紫野の延長14回の長い試合が終わり、帰ろうと通路を歩いていると今度は一塁側に彼女らの姿を発見する。しかし、泣いている子がいるので声はかけられず、球場を後にした。彼女らはどうして鳥羽の側にいたのだろう。

 妙に気になる4人だったが、再会したのは準々決勝、第3試合の福知山成美対京都成章の試合終了後。成章の松井監督にバスの前で話を聞いた後のことだった。このときは2人だったが、またも泣いている子がいた。しかし、僕は勇気を持って話しかけてみることにした。「すみません、昨日僕の後ろにいましたよね?」。2人は「はい、いました」と僕がカメラを持っていることで理解してくれたようだった。


 「5回コールドで負けた京都成章に、(折り)鶴を渡したらすごく喜んでくれて、『京教は相手チームをけなすことがなくてむしろ学ぶところがあったと言ってくれて…』。(泣)私ら京教って勉強のイメージで、弱いチームやけど学んでくれるところあったのかと、そう言ってくれたことが嬉しくて…。今までは強豪校って高飛車なイメージやったけど、試合(自体)は短い時間やったけど、『昨日の敵は今日の友』みたいな感じに思えた。それで私らが『前に出ろ』っていう赤と白の、1000から1200ぐらいの折鶴で作った横断幕みたいなのを、次の試合の応援に持って行ったら応援席にまぜてくれて、試合が終わると『京教ありがとう』って何人も声をかけてくれたのが嬉しくて…。(泣)それが今日成章が負けて…、自分らが負けたよりも泣けたかもしれない」。(泣)


 それらの言葉に深く感心して、それから僕は二人とたくさんの話をした。二人の話も止まらない。「私ら成章に勝つと思ってた。勝ったら次はどこでとか思ってたんやけど…、でも最高のプレーやってくれた」。「福知山球場で負けたから、あんまり応援に来てもらえなかったし残念やった」。僕が「京都教育大出身の監督さんが多くて、例えば立命館とか」と言うと「そういえば立命館と練習試合したなあ」と僕が聞きたいと思っている色々なことを話してくれた。そして、「大学行ってもマネージャーするの?」と聞くと、「マネージャーやるよりも後輩の応援がしたいなあ、もちろん成章も」と試合に勝ち進んだ成章のファンにもなった様子だった。そして、「マネージャーやってなかったら他の高校なんて応援しなかった」と最も心揺さぶられる言葉を言ってくれたのだった。

 「ところで、なんでマネージャーしてたの?」と聞いてみた。「私は少年野球やってたので。野球が好き」と京教の練習ではキャッチボールや守備練習のお手伝いをすると言う。京教は「3年入れて27人で、抜けたから今17人。マネジャーが5人」と少ない部員の現状や「私はスポーツ関係の仕事に就きたい」と将来のことまで話してくれた。それで今度は僕の番だった。「ブログに記事を書いて載せたり、写真を撮って載せたり。毎日球場に来て監督とか選手に話しかけて…無理やったら保護者とか…」。そういうスポーツライターの真似事をしていることに二人は「ノートにスコアつけながら写真撮って見てるんで、スパイかと思った」。

 「明日も来るの?」と聞くと、「私は毎日来ますよ」「私は模試があるので明後日は来れないんで。この前あったとき休んだから」と彼女らの「熱くなれるのは今だけ」という言葉が胸に残った。そして、時間が遅くなってきたので「じゃあまた明日!」と言って別れることになった。「これ載せるときは2人の名前だけじゃなくて4人の名前で載せてくださいね。4人の気持ちは同じだから」ということになったのだが、こちらは「更新が滞っているので、10日後ぐらいに」と言っていた。他の二人にも会えたらなあと思いつつ、次の日は雨で中止。準決勝の行われた日曜日も会えなかった。


 けれども、決勝終了後の最後の最後で幸運にも彼女らにまた会えた。龍谷大平安の前主将、山口さんの話を聞いているとき、ピンクの傘を差す4人を発見。この写真はそのときに撮ったもの。「どうも」と話しかけると、「あれ、あれ見てください。『前に出ろ』が平安のところに行きました」。僕は「ええっ?!どこ?」と平安のバスに向かって必死に駆け出す。そして、平安のユニフォームの選手に「すみません。それ、写真に撮りたいんですけど、いいですか?」と言ったら、「どうぞ」と『前に出ろ』を持って静止してくれた。




img_7271.jpg



 こうして、彼女4人の想いが、甲子園に行く龍谷大平安に受け継がれた場面をぎりぎり写真に撮れて大満足だった。そして、この前あいさつできなかった二人にもあいさつをして、ようやく僕の第91回京都大会の幕は下りたと思った。


 彼女らは平安の選手が出てくるところを待った。僕も同じように待っていて。そこで彼女らに「ルーキーズ」のことを聞いてみたがあまりいい反応が得られなかった。それもそのはず、彼女らは一体どれくらい勉強をしているのだろう。

 平安の選手が出てきて僕が写真を撮ったり見物しているうちに、彼女らは帰っていった。試合が観られなかった子も中にいたようで、決勝の最後のシーンの写真をたくさん見てもらっていた。そんな光景が彼女らの思い出の中に一瞬でも刻まれただろうか。もしそうなってくれれば僕もありがたい。 


 それにしても、彼女らが京都ナンバーワンの偏差値73か4の高校に通っているにもかかわらず、世間に勉強のイメージを持たれているのが少々不満なんだとわかって不思議な思いがする。彼女らの受け答えの良さで頭がいいことはわかったが、まさか一番試験が難しいのが京教附だということはよく知らなかった。

 そういえば「1年のときは(20年ぶりの)1回戦を突破したから、今年は2勝以上するのが目標だった」と言っていた。京教附の「弱小チーム」のイメージを払拭するために新チームの来年以降の健闘を大いに期待したい。そして、京都代表・龍谷大平安の今年の全国制覇も期待したい。すでに部活動を引退した彼女ら4人も、切に願っていると思う。苦しくなっても「前に出ろ」。甲子園のアルプスで「前に出ろ」が飾られているところを僕は追いかけてみたい。そこで彼女らに再会できれば願ってもないことだ。






☆ブログランキング(http://blog.with2.net/)に参加しています。

⇒最後に恐れ入りますが、どうぞこちらをクリックお願いします!!