第88回京都大会決勝 福知山成美3-2西城陽
延長10回 中前に決勝打を放った福知山成美・塚下
(後ろは同じく背番号3 西城陽・野崎)
雨による順延のおかげで決勝までの6日間、13試合の高校野球を堪能することができた。実は高校野球は準々決勝から決勝まで観て、その後軟式の高校野球や中学野球を観に行こうと目論んでいたのだが、こういう展開になってしまって目が離せなくなり、高校野球を観ることを優先してしまうことになった。とにかく不思議だった。
どの試合が一番印象に残っているかと聞かれたら、やはり京都外大西vs京都すばるということになるだろう。3連覇を目指す外大西を最後まで苦しめたのは校名変更3年目の京都すばる。新しい力が伝統校を破るという高校野球らしい筋書きがまさに生まれようとした瞬間に、これまた3年間の思い、仲間の涙という高校野球の王道ともいえる何かが逆転をもたらしてしまうのだった。実に興味深いものだった。
「泣いたらアカンよ、決勝以外で泣いてマウンドに立つなんて観たことがない。涙を流してしまうと、何かが達成されてしまうから次が心配」と知人はそう言った。黙っていたが、実は僕も泣いてしまった。高校野球が始まる前、泣かされないように気をつけようと自分に誓いを立てていたのだが、それも無駄なことだった。目頭が熱くなることはそれまでにでも何度かあったが涙が出てきたのはこの試合が初めてだった。
7回のチャンスを潰した外大西の8回のマウンドに大野が上がった。もう試合は十中八九決まりかけていたのだが、ここで凄まじい投球を見せる。レンズ越しに見るその躍動感、投球フォームはこれまで観てきた試合でも群を抜いていて素晴らしかった。闘争心に溢れ、何がそうさせているのかわからないストレートの威力だった。すばる打線はあっという間に抑えられて外大西の逆転へとつながっていくことになる。
彼はそんな闘志を前面に押し出して投げるタイプのピッチャーではなかった。昨夏の87回大会では、北岡、本田を休ませるためにマウンドに送り出された。甲子園ではブルペンで投球練習をした。秋に頭角を現したが、決勝の平安戦では先発するも、大事なところを北岡、本田に奪われ、近畿大会では登板がなかった。選抜でも先発のマウンドを任せられたが、これも消化不良。責任がのしかかる場面では、交代させられた。春は春で3位決定戦に立命館打線を相手に15奪三振をマークし完封、アメリカとの交流試合を迎え、京都選抜では背番号1をつけることになったが、チームの中では3番手という印象を拭い去ることはできずにいた。勝ちも負けもつかない登板。
吉田もまた、吉田で京都外大西の4番の重責を常に感じてきただろう。同じ藤森中学から共に汗を流した大野の投球に発奮し、打球は深々と右中間を破り、逆転の3点二塁打を放った。昨夏の87回大会はベンチ入りすらできず、アルプススタンドで戦況を見守った。秋は準決勝の京都成章で延長戦に終止符を打つ決勝タイムリーを放つものの、決勝の平安戦ではケガで出場できず、近畿大会の智弁和歌山戦では3三振を喫した。選抜では2安打を放つものの先頭打者として出塁したのみで、ここぞという時の長打やタイムリーは観られなかった。
そんな彼が目の前で全力でバッターに対しているのを見ると涙が自然に出て、そんな彼が二塁ベース近くでガッツポーズをしているのを見ると涙が頬を伝わった。京都すばるには申し訳ないことだが、これが伝統の力ということなのだろう。来年、再来年の成果を期待してやまない。
4強が決まったところで「新しき主役登場」と題して大野、吉田の特集を組んだのだが、それもうまくいかなかった。新しい主役は他にももっとたくさんいた。成美の駒谷に、塚下、西城陽の清水に、野崎、だった。成章が優勝したら、「石の上にも3年」と題して石上特集を組もうとか、「西山決戦を西山が決めた」と題して西山特集を組もうとか。全く高校野球はわからない。クタクタに疲れているのに興奮しているのか眠気が訪れない。この夏に撮った写真を数えてみると6千枚強だった。その日その日にハイライトとして、印象に残った写真と試合を振り返った文章を書きたかったのだが、それもうまくいかなかった。
準決勝では京都外大西の先発は大野だった。結果的に2番の中村に逆転の3ランを浴びてしまう。ややランナーに気を遣い過ぎて、高めにはずずボールがやや低かったのだが、これを振り切った中村に分があった。セオリーでは高めのボール球は振ってはいけない。だが、振ってしまったことによって成美の勝利が決まったといっても言い過ぎではない。大野は本田にマウンドを託すことになったが、最後の最後に自分の責任で勝ち負けがついてどうだったのだろう。この自責点が彼を一回りも二回りも大きくするだろう。劇的なホームランを打たれたことが勲章になった。打たれない投手はいない。
京都成章の最後は西山だった。9回二死から3番石上が意地の右前安打で西山に回した。この試合の7回に西山はめったにしない盗塁を決めた。チームは西城陽の清水にそれまで散発の2安打に抑えられていたからだ。その後一死1、2塁とチャンスを広げたが、それも実らず5-5-3のダブルプレーに終わっていた。右翼席に運ぶホームランを何度観たことだろうここでホームランを打ってもまだ1点差。ランナーを進めたい思いもあったのだろう。振り抜いた打球はいつもと違うレフト上空へと飛んだ。レフトのグラブにそれが収まって試合が終わった。西山もまた甲子園は遠かった。
翌日の決勝で福知山成美が7年ぶりの優勝を決めた。どの雑誌を見ても成美の名前は隅に少しあるだけで、大半が京都3強に紙面が割かれた。西城陽も同様に、決勝まで上がってくることは想像もつかなかった。試合は11安打も放った成美が9回まで2点に抑えられた。しかし、最後に4番の塚下が延長10回二死3塁から中前に決勝のタイムリーを放った。今大会は、西京極は塚下のためにあるのか、と思わせられるほどことごとくチャンスで安打を放っていたようにも思う。今大会は実に、24打数14安打6打点。チームトップの5割8分3厘をマークした。あの勝利後のスピーチは独特で印象に残った。
福知山成美は1週間で6試合の過密日程の中、優勝を勝ち取った。そして、振り返ってみると、初戦以外の5試合を球場で直に観ることができた。だが、全てが一塁側で観戦したために福知山成美の勝利の瞬間の写真は全て彼らの後ろ姿が写っている。あまり詳しくわからない部分もあるが、1勝するごとにまるで優勝したような喜びようであった。この過密日程が選手の集中力を高め、一戦ごとに力をつけていった。下馬評はあくまで下馬評だった。平安に京都外大西を下し、成章に勝った西城陽まで倒してしまった。今日、6日からの全国大会の抽選会が行われ、大会4日目の第4試合で愛工大名電と対戦することが決まった。愛工大名電戦も3塁側に決まった。勝って八幡商との対戦が決まれば京滋対決は史上初という。この試合も3塁側で勝てば、ようやく1塁側となる。天理なのか熊本工なのかわからないが、できれば京奈対決をしてもらって近畿勢を次々と撃破してもらいたいと思う。そう簡単に駒谷は攻略できないだろうし、あの打線は抑えられないと信じている。16日は休みの予定なので甲子園に行きたい。そして、1塁側で満面の笑みを写真に収めたい、という筋書きが心の中でもうできあがっている。
積み重ねてきた大会も来年は89回。3強時代は一度リセットして、89(やきゅう)の大会になる来年が待ち遠しくて仕方がない。ここで紹介しきれなかったチームには申し訳ないが、ちゃんと見届けたと思っている。来年新たな旋風を巻き起こしてどこが優勝するのかを今から楽しみにして終わりにしたい。選手、監督、保護者の皆さん、来年はまた素晴らしい大会になるように準備してください。そして、またその成果を確認する意味で球場に足を運びたい。来年もまた、今年と同じように高校野球が観られる保障はどこにもないのだが、きっと球場に姿を現すだろう。それを今から想像すると楽しいのである。
8月9日(水)
大会第4日目第4試合 愛工大名電-福知山成美 16:00
延長10回 中前に決勝打を放った福知山成美・塚下
(後ろは同じく背番号3 西城陽・野崎)
雨による順延のおかげで決勝までの6日間、13試合の高校野球を堪能することができた。実は高校野球は準々決勝から決勝まで観て、その後軟式の高校野球や中学野球を観に行こうと目論んでいたのだが、こういう展開になってしまって目が離せなくなり、高校野球を観ることを優先してしまうことになった。とにかく不思議だった。
どの試合が一番印象に残っているかと聞かれたら、やはり京都外大西vs京都すばるということになるだろう。3連覇を目指す外大西を最後まで苦しめたのは校名変更3年目の京都すばる。新しい力が伝統校を破るという高校野球らしい筋書きがまさに生まれようとした瞬間に、これまた3年間の思い、仲間の涙という高校野球の王道ともいえる何かが逆転をもたらしてしまうのだった。実に興味深いものだった。
「泣いたらアカンよ、決勝以外で泣いてマウンドに立つなんて観たことがない。涙を流してしまうと、何かが達成されてしまうから次が心配」と知人はそう言った。黙っていたが、実は僕も泣いてしまった。高校野球が始まる前、泣かされないように気をつけようと自分に誓いを立てていたのだが、それも無駄なことだった。目頭が熱くなることはそれまでにでも何度かあったが涙が出てきたのはこの試合が初めてだった。
7回のチャンスを潰した外大西の8回のマウンドに大野が上がった。もう試合は十中八九決まりかけていたのだが、ここで凄まじい投球を見せる。レンズ越しに見るその躍動感、投球フォームはこれまで観てきた試合でも群を抜いていて素晴らしかった。闘争心に溢れ、何がそうさせているのかわからないストレートの威力だった。すばる打線はあっという間に抑えられて外大西の逆転へとつながっていくことになる。
彼はそんな闘志を前面に押し出して投げるタイプのピッチャーではなかった。昨夏の87回大会では、北岡、本田を休ませるためにマウンドに送り出された。甲子園ではブルペンで投球練習をした。秋に頭角を現したが、決勝の平安戦では先発するも、大事なところを北岡、本田に奪われ、近畿大会では登板がなかった。選抜でも先発のマウンドを任せられたが、これも消化不良。責任がのしかかる場面では、交代させられた。春は春で3位決定戦に立命館打線を相手に15奪三振をマークし完封、アメリカとの交流試合を迎え、京都選抜では背番号1をつけることになったが、チームの中では3番手という印象を拭い去ることはできずにいた。勝ちも負けもつかない登板。
吉田もまた、吉田で京都外大西の4番の重責を常に感じてきただろう。同じ藤森中学から共に汗を流した大野の投球に発奮し、打球は深々と右中間を破り、逆転の3点二塁打を放った。昨夏の87回大会はベンチ入りすらできず、アルプススタンドで戦況を見守った。秋は準決勝の京都成章で延長戦に終止符を打つ決勝タイムリーを放つものの、決勝の平安戦ではケガで出場できず、近畿大会の智弁和歌山戦では3三振を喫した。選抜では2安打を放つものの先頭打者として出塁したのみで、ここぞという時の長打やタイムリーは観られなかった。
そんな彼が目の前で全力でバッターに対しているのを見ると涙が自然に出て、そんな彼が二塁ベース近くでガッツポーズをしているのを見ると涙が頬を伝わった。京都すばるには申し訳ないことだが、これが伝統の力ということなのだろう。来年、再来年の成果を期待してやまない。
4強が決まったところで「新しき主役登場」と題して大野、吉田の特集を組んだのだが、それもうまくいかなかった。新しい主役は他にももっとたくさんいた。成美の駒谷に、塚下、西城陽の清水に、野崎、だった。成章が優勝したら、「石の上にも3年」と題して石上特集を組もうとか、「西山決戦を西山が決めた」と題して西山特集を組もうとか。全く高校野球はわからない。クタクタに疲れているのに興奮しているのか眠気が訪れない。この夏に撮った写真を数えてみると6千枚強だった。その日その日にハイライトとして、印象に残った写真と試合を振り返った文章を書きたかったのだが、それもうまくいかなかった。
準決勝では京都外大西の先発は大野だった。結果的に2番の中村に逆転の3ランを浴びてしまう。ややランナーに気を遣い過ぎて、高めにはずずボールがやや低かったのだが、これを振り切った中村に分があった。セオリーでは高めのボール球は振ってはいけない。だが、振ってしまったことによって成美の勝利が決まったといっても言い過ぎではない。大野は本田にマウンドを託すことになったが、最後の最後に自分の責任で勝ち負けがついてどうだったのだろう。この自責点が彼を一回りも二回りも大きくするだろう。劇的なホームランを打たれたことが勲章になった。打たれない投手はいない。
京都成章の最後は西山だった。9回二死から3番石上が意地の右前安打で西山に回した。この試合の7回に西山はめったにしない盗塁を決めた。チームは西城陽の清水にそれまで散発の2安打に抑えられていたからだ。その後一死1、2塁とチャンスを広げたが、それも実らず5-5-3のダブルプレーに終わっていた。右翼席に運ぶホームランを何度観たことだろうここでホームランを打ってもまだ1点差。ランナーを進めたい思いもあったのだろう。振り抜いた打球はいつもと違うレフト上空へと飛んだ。レフトのグラブにそれが収まって試合が終わった。西山もまた甲子園は遠かった。
翌日の決勝で福知山成美が7年ぶりの優勝を決めた。どの雑誌を見ても成美の名前は隅に少しあるだけで、大半が京都3強に紙面が割かれた。西城陽も同様に、決勝まで上がってくることは想像もつかなかった。試合は11安打も放った成美が9回まで2点に抑えられた。しかし、最後に4番の塚下が延長10回二死3塁から中前に決勝のタイムリーを放った。今大会は、西京極は塚下のためにあるのか、と思わせられるほどことごとくチャンスで安打を放っていたようにも思う。今大会は実に、24打数14安打6打点。チームトップの5割8分3厘をマークした。あの勝利後のスピーチは独特で印象に残った。
福知山成美は1週間で6試合の過密日程の中、優勝を勝ち取った。そして、振り返ってみると、初戦以外の5試合を球場で直に観ることができた。だが、全てが一塁側で観戦したために福知山成美の勝利の瞬間の写真は全て彼らの後ろ姿が写っている。あまり詳しくわからない部分もあるが、1勝するごとにまるで優勝したような喜びようであった。この過密日程が選手の集中力を高め、一戦ごとに力をつけていった。下馬評はあくまで下馬評だった。平安に京都外大西を下し、成章に勝った西城陽まで倒してしまった。今日、6日からの全国大会の抽選会が行われ、大会4日目の第4試合で愛工大名電と対戦することが決まった。愛工大名電戦も3塁側に決まった。勝って八幡商との対戦が決まれば京滋対決は史上初という。この試合も3塁側で勝てば、ようやく1塁側となる。天理なのか熊本工なのかわからないが、できれば京奈対決をしてもらって近畿勢を次々と撃破してもらいたいと思う。そう簡単に駒谷は攻略できないだろうし、あの打線は抑えられないと信じている。16日は休みの予定なので甲子園に行きたい。そして、1塁側で満面の笑みを写真に収めたい、という筋書きが心の中でもうできあがっている。
積み重ねてきた大会も来年は89回。3強時代は一度リセットして、89(やきゅう)の大会になる来年が待ち遠しくて仕方がない。ここで紹介しきれなかったチームには申し訳ないが、ちゃんと見届けたと思っている。来年新たな旋風を巻き起こしてどこが優勝するのかを今から楽しみにして終わりにしたい。選手、監督、保護者の皆さん、来年はまた素晴らしい大会になるように準備してください。そして、またその成果を確認する意味で球場に足を運びたい。来年もまた、今年と同じように高校野球が観られる保障はどこにもないのだが、きっと球場に姿を現すだろう。それを今から想像すると楽しいのである。
8月9日(水)
大会第4日目第4試合 愛工大名電-福知山成美 16:00